【ちょっと思い出しただけ】ネタバレ有無あらすじ「別れ、時を戻そう」感想 解説 RENDEZ-VOUS À TOKYO

大好きな【Night On Earth】(邦題:ナイト・オン・ザ・プラネット),それを劇中、キャラクター達が喋っているのが面白い。

オマージュのようだが日本映画だからか、或いは男女の別れの映画だからか湿気のある日本らしい作品だった。しっとり、じっとり系。

大人が見る恋愛映画。

決してエロい映画ではなく、むしろ健全な映画なのだが、子供が見てもわからんであろう大人だから理解出来る、微妙なズレ、微妙な空気の違いが作品に充満してる。

そんな大人の映画【ちょっと思い出しただけ】を今日を解説します。とても湿気のある蒸し暑い日や寝れない寒い夜に見ると、このねっとりした質感を楽しめるよ。

今日Lyraが紹介するのは、2022年2月11日公開の日本映画【ちょっと思い出しただけ】。

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1.【ちょっと思い出しただけ】

概要

監督は松居大悟、主演は池松壮亮と伊藤沙莉。怪我で夢を諦めた元ダンサーの男とタクシードライバーの女の6年間に及ぶ恋愛模様を、7月26日の1日を通して描く。第34回東京国際映画祭で観客賞を受賞。当時話題になっていて気になっていたのと高評価もあり見た記憶があります。

別れた後の2021年から時が逆行して男女のすれ違いから付き合うきっかけまでを主人公のタクシードライバーの女性の葉が、元カレ照生を偶然見かけた事で昔を思い出していくというストーリー。

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2.あらすじ

あらすじ:前編 *ネタバレ無し

2021年7月26日。佐伯照生の誕生日。34歳の照生は一人暮らしで、劇場の照明助手をしている。その日の仕事は舞踊公演で、舞台では泉美が踊っている。公演終了後、照生は誰もいない舞台に立ち一人で踊り始めた。

その頃、タクシードライバーの野原葉は、客を乗せていて、トイレに寄りたいといわれ客に指示された近くの劇場で降ろし、客待ちをしているとふと気になって劇場内に入っていく。すると舞台で踊る照生を偶然見かける。

2020年。コロナ禍に見舞われ、生活の変化を余儀なくされる。

2019年。照生のその夜の仕事はライブハウス。仕事が終わり、1人商店街をぶらついているとダンスの後輩の泉美に声を掛けられ、照生はケガでダンサーの夢を諦め照明の仕事をしていると打ち明けた。そのまま行きつけの飲み屋に行き店にいる人に誕生日おめでとうと言ってもらった。

 

その頃、居酒屋の合コンに参加していた葉はそのノリについていけずタバコを吸いに外へ。すると反対側の店先に、自分と似た様な状況なのか1人の男がタバコを吹かせていた。ライターがつかないでいるとその男がライターを貸してくれた。男の名は康太。ノリが良い康太に話しかけられ、その勢いに押されるまま、気がつくと康太と一夜を共にしていた。行きずりの男、康太は目を覚ますと何故か唐突に「一生幸せにするんで」と言う。

2018年。照生は足をケガしたばかりで、リハビリの日々を過ごしていた。ダンスができないことに苦しんでいる。そんな照生を葉がタクシーで迎えに行く。辛い時こそ照生を支えたいと願う葉と、葉に会うと傷つけてしまいそうで距離を置いている照生の会話は噛み合わず、言い合いはエスカレートして喧嘩別れになる。別れ際、紙袋を渡す葉。中には小さなケーキが入っていた。

2017年。恋人として結ばれた照生と葉は、照生のバイト先である水族館の休館日に、二人で忍び込んで秘密のデートをする。 その夜、二人はナイト・オン・ザ・プラネットを観る。互いに相手を思っているのだが、現実の暮らしの中で愛を成就させたい葉と、夢と現実の狭間で結婚に踏み切れない照生のわずかなすれ違いが見える。

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あらすじ:後編 *ネタバレ有り

2016年。花束を持ってダンススタジオを訪れた葉。偶然、外から窓越しに泉美からプレゼントを渡され親しげに話す姿を見かけ、嫉妬にかられる。花束は、渡さずに投げすて帰る葉。たまたまそれを目撃する照生。

その夜、葉は照生のバイト先に行って自分の気持ちをぶつける。照生もそれに応えてあげた。

2015年。葉は、友人の舞台を観に行き、群舞を踊り振付を担当する照生に出会う。ダンスの話をし、帰りも一緒になった二人は飲みながら歩くうちに意気投合して、ほろ酔いに任せ深夜の街中で踊り出す。

2021年、現在。トイレに行った後、客に照生が話しかけれ、「どこかで会いましたっけ?」と聞かれた。それは昔バイトしてた時のライブハウスの出演者だった男性で、さらに遡ると葉と初めてあった夜に商店街であった男性だったため「ええ、何度か」と笑う照生。客が歩いていく先にタクシーがとまっているのを見て何故か切なくなったような顔をし見つめていた。

葉は帰って来た客を乗せてタクシーを走らせる。

照生は行きつけのバーでバーのマスター達に誕生日を祝ってもらう。

明け方、葉は仕事を終えて帰宅。朝日が上がるのをぼんやりベランダから眺めていると、部屋から「おかえり」と赤ん坊を抱えた男性が出て来た。それは、今は夫となった行きずりの男、康太だった。

3.Lyraの感想&解説

時を戻そう(笑)

2021年現在から時間が逆行して行き、出会いの頃へ戻り、またラストに2021年現在になり想いが戻ってくる。

この記憶の逆行がこの作品の全て…つまりこのオチが全て、なのだ。だから最後まで見ないとじんわりこない。

佐伯照生の誕生日、その1日を年一にして遡って描かれる。淡々としてるのが良い。

この何でもない普通の日常を普通に描いて、時々、些細な素敵なことがあって笑顔になったり、泣いたりする。その描き方が「ジム・ジャームッシュが好きな監督さん&スタッフなんだな」と思えて来てしみじみしてしまいました。

Lyraもジム・ジャームッシュ大好きで、この【Night On Earth】は特に好きな映画。この映画がオムニバスになっているのだけど、その中で1番ウィノナ・ライダー(このブログで良くLyra’s Monologueで取り上げたり、The Stranger Thingsではお母さん役をやっています。)の作品が大好きだから見ていて、キャラクター達が喋るたびにニヤニヤしてしまいました。高岡さきのはまんまそれ。

『ナイト・オン・ザ・プラネット』【Night on Earth】

は、1991年に制作された映画で、ジム・ジャームッシュ監督のオムニバス映画になります。ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキを舞台に、タクシードライバーと乗客の人間模様を描くくすっと笑ってしまうユーモアとホロッと涙してしまうさりげないお話が素敵な映画です。

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ナイト・オン・ザ・プラネットとの違い

ただあちらはオシャレでドライ。ウェットな感じはなく潔いウィノナ演ずるタクシードライバーの女の子は、メソメソもクヨクヨもしていない男前な女子。出てくる他のキャラクターもどんよりしていなくて、カリフォルニアの空の様にカラッとしている。

でもこちらは雨が降りそうな曇り空だったり、蒸し暑そうな夜な人々。どんより片思いしてる後輩に、会えない妻を1日中待つ男、「一生大事にする」なんて言い出す行きずりの男…重い、重すぎてG(重力)を感じる。

そしてタクシードライバーの葉はムリしてドライなフリをしているけど、本当はクヨクヨ考えるタイプで、全然カラッとしていない。どちらかと言えばジメジメしてる世界観だ。

どちらが良いとか悪いとかではなく、日米のテイストの違いが如実に現れていると言うこと。

お国柄の違い、環境の違い、性格の違いが出ている様で面白い。

この映画では、皆が何かを引きずり、時とともにその引きずり方が変わっていく様を描いてる様なもの。そんな湿った空気感が凄く日本らしいと感じた。

あの夜の商店街なんて汗でじめったシャツをパタパタしながら歩いた場所だろう。でもこの湿気がある感じがこの思い出逆行型物語に非常に合っているのだ。

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普通の人の普通の恋愛

普通の恋愛映画。ものすごい事件が起きるわけではない。本当に地味な普通の日常が描かれているだけだ。

毎朝起きてサボテンに水をやり、ラジオ体操して坂を降りてお地蔵さんの前を曲がって仕事に行く。夜は缶ビール片手にシャッター降りてる商店街を歩いて帰るだけだ。或いは夜になってもタクシーで街を回る残業をしているか…それだけの毎日。

でもその日常があるから主人公のちょっとした喜びや疲れた感が味になって行くのだ。

RE: 時を戻そう(笑)

これが出会いから別れの通常の時系列だと普通の恋愛ドラマになってしまい、下手すると視聴率が低いドラマになりかねず「映画化すら無理〜」な感じになってしまっただろう。(あ、これは言葉のあやでドラマはありません)

わざと現在から過去へと時を戻してる感じが新鮮に感じて、ちょっと変わった作品にしている…アイディアの勝利なのだ。

この感じ、個人的にLyraが大好きで何かにつけて投稿している【エターナル・サンシャイン】に似てる感じがした。あちらはもっとわかりにくい描き方をしていて時系列がしっちゃかめっちゃかだが(笑)。

*【エターナル・サンシャイン】ネタバレあらすじ感想 生まれ変わっても好きなものは好き Eternal Sunshine of the Spotless Mind

 

記憶を辿っていく感じや、昔の記憶や思い出がひょんな所で繋がっているのが似てると感じた要因だと思う。

個の思い出・温度差

そしてもう1つの特徴が【ちょっと思い出しただけ】では、2人の思い出と言う感じが薄い。個の思い出だったのが特徴的で面白い。たくさん恋愛映画を見て来たが、どうしてもラブストーリーでは2人の思い出を描くほうが断然多い。

しかしこの映画は、2人でいるより個人。それがより閉鎖感があってじめった感じにしてるのだ。ネットリした質感があるのはこのせい?情念というべきか、なぜか、ラブロマンスなのに陽気な感じがしないのだ。

そしてその個人の思い出の温度差が男女でまるっきり違っている。

「あの頃は楽しいことも嫌なこともあったけど懐かしいなあ」と思ってる葉(女性)と、泣きたいほど辛い思い出みたいに振り返る照生(男性)。この温度差が面白かった。

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これは男女の違いだろうし、怪我した方と何も変わらない健康な方との肉体的な健康問題の違いもあるだろう。

互いに元カレ、元カノとして懐かしさは同じはず。だが、こんなに男女の熱の違いがあることでより「結局、人間て違うよな」と冷めた感じに見えた。非常に客観的に見ている感じがする映画だ。

この男女の温度差の違いが最初から最後まで続いていた様に感じる。だからより暗く陰湿な感じがしたのだ。

もちろん性格の不一致もあるだろう。だいたい、この2人は台詞が噛み合っていない感じが何回も見受けらたから納得の別れだといえる。

始まり方も行動派の女のゴリ押しだったしね。

言葉使い

あと気になったのは、逆行する変わった構成とは違い、何かもどかしい、違和感があったこと。

それは多分セリフが原因だと思う。つまり喋り。会話だ。なぜかしっくりこない?普通じゃないのだ。

葉が出会った康太はノンケ(普通)なんだけど、やりとりが全ておねー言葉だった。

ここからはいつものLyraの深読み考察になりますが…

4.Lyraの深読みツッコミポイント解説

セリフがおねーぽかった点や物腰が柔らかい照生。もし作品として計算でそう言うふうに喋らせていたならば、照生はゲイだったのかなあ、なんて思ってしまった。

これは個人的にLyraが感じた事なのでメインのストーリー展開とは関係ないのだが、映画としてはかなり重要なコアな話になる。

大体、いきつけのバーのマスターは、ゲイだったし、常連客の成田凌が演じていたフミオも喋りがオネエで、ゲイっぽかった(バイセクシャルかもしれないけれど)。

もしかして照生が、バイセクシャルやアイデンティティが曖昧な男性の設定だったら、葉みたいなあんなゴリ押しで来る女は怖い。それにchoreographerにはゲイ多し…なんてね。

だから結婚に踏み切れなかったのかな、と感じてしまった。夢を叶えてから〜とかの条件付きの問題ではなく、もっと根深い物があったから、ダンサーとして再起不能といわれた問題が起きても、すぐに葉に会って相談したり愚痴を言うことができなかったのかな?と思った。

「迷惑をかけたくなかったから」何週間も連絡しないし会わなかった理由をこう述べた照生。

「迷惑かけてよ」という葉。

どちらの言い分も分かるし、どちらも相手を思い遣っての行動。誰が悪くて誰が悪くないという問題では片付けらない深い問題だ。

このすれ違いは初めからあった。感情的で考えるより先に行動してしまう葉と、控えめですぐに返答出来ない照生とでは真逆な性質。ズレがあるのに気づかないふりをしていただけ。

なんとも言えない無駄な時間。

それが葉からしたら当時はイラつく原因であり、照生からしたら先延ばしに出来る楽な逃げ道だったのだろう。

それが康太にはなかった。何もかもシンプルで単刀直入。葉なゴリ押しする必要もなかったのだ。

性格の不一致だけでなく、趣味趣向の違い、性の違い、終わった後の回想も違う…同じ時間を共有してたのに。

 

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まとめ

大好きな映画【ナイト・オン・ザ・プラネット】の話が何回も出て来たのが良かったし映画通にはニンマリするポイントだろう。この映画は監督さんor脚本家がナイト・オン・ザ・プラネットとタクシードライバー、ジム・ジャームッシュやヴィムヴェンダースが好きでこの映画を作った様な感じがして映画愛を感じました。

「あのウィノナ・ライダーはカッケーからね。」それを劇中でも葉が全く同じように言っているんだもの、親近感が沸いた瞬間。

そういうあるあるを散りばめたために特別な作品ではないけど、気になって見て良かった、と思った記憶があります。

公開時に見た時は気にしなかったけど意外と康太役のニューヨークの屋敷さんが、出会うシーンが、わざとらしくない演技をしていてよかったですね。「運命ですから」って言い方はマジでキモかったけどww。

 

ジメジメした感じが映画中に流れている。「これが日本の流れなのかも」と明日中納得。どんよりした永瀬正敏の待ってる男も「出会った時は妻がいたんだ」と分かるシーンは、より物語を暗くして現在の悲哀をまして行く。「どきなさいよ」とおばちゃん達に言われて…可哀想過ぎる。

時が逆行すればするほど、現在がどんどん悲惨になっていくなんて…怖い映画パワーです。

でもそれをスカッとさせるのがラスト。

「別れてよかったね」と笑顔になれる。

女は強いってこと?

何やってもダメな人は、別れたほうが幸せになれるという定番の映画でした。

 

 

 

4.Cast キャスト

佐伯照生(さえき てるお)
演 – 池松壮亮
怪我によって夢を諦めた元ダンサー
野原葉(のはら よう)
演 – 伊藤沙莉
タクシードライバー
さつき
演 – 大関れいか
葉の親友
康太
演 – 屋敷裕政(ニューヨーク)
コンパをしていた男性
照生のダンサー仲間
演 – 広瀬斗史輝
牧田
演 – 市川実和子
照生の先輩であり、照明担当
泉美
演 – 河合優実
照生の後輩のダンサー
ナグラ
演 – 鈴木慶一
タクシー運転手
中井戸
演 – 國村隼(友情出演)
バー「とまり木」のマスター
フミオ
演 – 成田凌
バー「とまり木」の常連客
シュン
演 – 菅田俊
バー「とまり木」の客
ジュン
演 – 永瀬正敏
公園で妻を待ち続けている男
スズエ
演 – 神野三鈴
ジュンの妻
タクシーの乗客
演 – 安斉かれん、郭智博(シゲル)、高岡早紀(カワイ)、細井鼓太(マサオ)
3人の酔っ払い
演 – 渋川清彦、松浦祐也、山崎将平
ミュージシャンの男
演 – 尾崎世界観
タナベ
演 – 篠原篤
床屋
れいな
演 – 山下恵奈
葉とさつきと共にコンパに参加した女性

スタッフ

  • 監督・脚本:松居大悟
  • 主題歌:クリープハイプ「ナイトオンザプラネット」(ユニバーサルシグマ)
  • 製作:太田和宏
  • プロデューサー:和田大輔、沢村敏
  • ラインプロデューサー:原田耕治
  • 撮影:塩谷大樹
  • 照明:藤井勇
  • 録音:竹内久史
  • 美術:相馬直樹
  • 装飾:中村三五
  • ヘアメイク:酒井夢月
  • スタイリスト:神田百実
  • 振付:皆川まゆむ
  • 編集:瀧田隆一
  • 音響効果:松浦大樹
  • 劇伴:森優太
  • キャスティング:門田治子
  • 宣伝プロデューサー:筒井史子(FINOR)
  • タイトル・宣伝デザイン:大島依提亜
  • スチール:E-WAX
  • メイキング:エリザベス宮地、タートル今田
  • 助監督:相良健一
  • 制作担当:尾形龍一
  • 制作・配給:東京テアトル
  • 宣伝:FINOR
  • 制作プロダクション:レスパスフィルム
  • 製作:『ちょっと思い出しただけ』製作委員会(東京テアトル、ユニバーサル ミュージック)

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